理学とアニメが再び交差するとき、物語は始まる――!!

というわけで、アニメ『とある魔術の禁書目録Ⅲ』の話をする……と見せかけて、アニメ『賭ケグルイ××(第2期)』第10話「理の女」を受けて数学を語っていきたい。普段のアニメレビューとは異なり、あらすじやネタバレの内容はほとんど含まないし、たぶん感想も書かない。

対象とする回「理の女」では、蛇喰夢子(じゃばみ ゆめこ)と五十嵐清華(いがらし さやか)とが、「扉の塔」をステージにギャンブル勝負を行う。作中のクイズとして出された数式に対して、清華は高校数学レベルだとして即答する。正直、私は一瞬で解答が思い付かなかった。
高校数学は得意だったし、大学院生時代にも家庭教師のアルバイトをしていたので復習できていた。それなのに高校数学レベル(?)の問題に意表を突かれてしまい、悔しくてたまらないので改めて数学クイズを考えてみる。

偶然にも本日3.14は数学の日。キーワードは、無限べき乗塔(無限べき乗タワー)である。
なお、できるだけ数式ばかりにならないよう配慮しつつ数学で遊んでいきたい(ブログがTeXなどの数式に対応していないから見栄えが悪いだけでなく、単純に面倒なため避けているのは内緒)。


さっそく本日のテーマを見ていこう。
アニメ『賭ケグルイ××』第10話「理の女」より、問題のクイズはこちら。


賭ケグルイ××10話「理の女」の無限べき乗塔は高校数学レベルか

つまり「(((X^X)^X)^X)^...=2」(――(A))が成り立つときの「X^2」を求めるという問題である。
【訂正】「X^(X^(X^(X^...)))=2」(――(A))が成り立つときの「X^2」を求めるという問題である。

ここで、図中の記号が「エックス」か「カイ」かというトリビアルな議論はしない。
冒頭でネタバレしないと書いたが、上図のクイズは「2」と即答される。これはストーリー上意味のあるネタバレではないので、ま、多少はね。
そして私は頭を抱える。前提条件式(A)から「X>0」であるため「X^2=2」であれば「X=√2」である。√2の√2乗の√2乗の√2乗の√2乗の√2乗の√2乗……√2を無限回√2で累乗(べき乗)したものは2になる……だと!?

時間的制約のある試験としての数学は、解法の選択が勝負とも言える。
まず、この無限べき乗問題に対して式(A)のXを直接解くアプローチを考える。Xを(n-1)回X乗したもの(Xのn回べき乗タワー)をa(X,n)とすると式(A)は以下に変形できる。

lim(n->∞)a(X,n)=2(――(B))

左辺に対してネイピア数を底に自然対数を取る。

lim(n->∞)ln(a(X,n))=lim(n->∞)(X^(n-1)*lnX)(――(C))

……これは簡単に解けそうにない。たぶん高校数学レベルでは無理だ。数式も見にくいし、このアプローチは終了しよう。

【訂正】
lim(n->∞)ln(a(X,n))=lim(n->∞)(a(X,n-1)*lnX)(――(C2))

式(C2)に対して以下の式(E)の導出と同じ処理をすれば「X^2=2」を導けるが、単なる遠回りになってしまうため割愛する。してみると、やはり無限べき乗タワーの対数を取って直接計算するというアプローチはナンセンスだと言える。


定性的というか、感覚的というか、簡易的に解く方法を思い付いた。a(X,n)について次式が成り立つ。

a(X,n)=X^a(X,n-1)(――(D))

式(D)の両辺の極限は、式(B)により「lim(n->∞)a(X,n)=lim(n->∞)a(X,n-1)=2」であるから、次式となる。

2=X^2(――(E))

おや、クイズの解答ではないか。なんだか反則したようだが、答えは得た。このとき、上述の通り「X=√2」である。


偉い人は言った。「逆に考えるんだ」と。
√2を無限回累乗したものが2になるか考えてみよう。√2の無限べき乗塔、または√2の無限べき乗タワーである。
上記のa(X,n)を用いて以下が成り立つ。

a(√2,n+1)=a(√2,n)^√2<a(√2,n)^2=a(√2,n-1)^2=...=a(√2,1)^2=2
→a(√2,n)<2(――(F))

ちょっと省略するが、単調増加かつ有界のため、a(√2,n)は極限値を持つ。
ここで下限の極限値が2であることを示せば、はさみうちの定理により「lim(n->∞)a(√2,n)=2」を証明できるのだが、残念ながら下限の評価方法を思いつかない。

極限値を持つことがわかったので、式(D)の「X=√2」として、以下の特性方程式を用いる。

α=√2^α(――(G))

これはシンプルで美しい式ではないか。しかしながら、高校数学レベルでは式(G)の解析解を求めることはできない。そこでイカサマ手法として無料ソルバーツール「Mathway」の力を借りる。「y=x-√2^x」は以下に近似される。

√2の無限べき乗塔が2に収束することをグラフから求める

したがって、「x-√2^x=0」の解はx=2,4である。ここで、式(F)の関係から「lim(n->∞)a(√2,n)=2」が示される。逆からの証明終了。


数式でもう少し遊ぼうか。式(G)を見ると両辺二乗したくならないか?

x^2=2^x(――(H))

さらに美しい。素晴らしい対称性である。こうなるとxが負値の解を持ち得る。この負の解の話になると、完全に高校数学レベルでなくなる。「x^2=2^x」の美しさに共感した人々を探すべく検索したところ、2015年度の名古屋大学の理系数学の入試問題に登場していることが判明した。この入試問題では、誘導問題を前座として「x^2=2^x」の解が3つであることを証明させている。「x-√2^x=0」と共通の2解を導出する手段としては、「y=x^2」および「y=2^x」の曲線の交点を考えるようだ。これは解析的に求められないので入試問題としてはいかがなものだろうか。
なお、上述の高校数学レベルを超えた第3解は、ランベルトのW関数(LambertW関数)を用いて表現されるが、ここでは割愛する。気になる人はぐぐってどうぞ。

†まとめ†
・アニメ『賭ケグルイ××(第2期)』第10話「理の女」で気になったので、「√2を無限回√2乗する」など「無限べき乗塔」について考えてみた。
・ギャンブルにおいて数学的思考力は必須である。
・簡易的な手法としては、数列の漸化式の両辺極限を考えればギャンブル問題の解答が得られる。
・美しい数式「x^2=2^x」が3解を持つことの証明は旧帝大の理系数学レベル。
・漫画『賭ケグルイ』が「扉の塔」とかけて「無限べき乗塔」を題材としたのならば、そのセンスを高く評価する。

【追記】閲覧者考案の別解
「X=X」の両辺それぞれを式(A)の両辺でべき乗する。

X^X^(X^(X^(X^...)))=X^2(――(G))

式(G)左辺に式(A)を適用すれば式(E)が導かれる。

非常に簡潔な解法でありスマートだと思われる。
この別解に関しても、御意見あればコメントにどうぞ。

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