厨二病歓喜の科学的かつ哲学的な話をしよう。
この世界は仮想現実(VR: Virtual Reality)であるとする考え方を「シミュレーション仮説」と呼ぶ。
仮想現実はシミュレーテッドリアリティSimulated reality)とも言われる。


まずは小話から。
かれこれ半年以上前のことだ。
とある昼下がり、堕天使エヌは知人とカフェに来ていた。

私はドヤ顔で語った。
「シミュレーション仮説を題材にして小説を書こうと考えている」

知人からは「シミュレーション仮説とはなんぞや」と問われ、この世界が外部から作られたものであり仮想現実であると簡単に説明した。
シミュレーション仮説はネタとして新鮮だと思っていたので自信満々だ。
しかしながら、知人から言われてしまった。
「スターオーシャンの設定が多分それだ」

残念ながら私は、『スターオーシャン』(STAR OCEAN)をプレイしたことがない。
RPGはFF派なのだよ。
以下ではゲームやアニメのネタバレが入るので注意。


調べたところ、スターオーシャンシリーズは第5作目までリリースされている。
そして、第3作目の『スターオーシャン Till the End of Time』(SO3)が問題作だ。
『スターオーシャン3』にて、主人公たちの世界がゲームの中にあることが明かされる。
同時に、世界観が共通しているSO1およびSO2の世界の現実性も否定されたことになる。
この衝撃的な内容により、SO3は賛否両論の作品となったようだ。
メタ的な視点で考えれば、「プレイしているゲームの世界が設定上もゲームの世界だった」という状況は面白い。

というわけで、知人の言う通り『スターオーシャン』の設定はシミュレーション仮説と見なせる。
かの有名な映画『マトリックス』もシミュレーション仮説の設定が使われているようだ。
お恥ずかしながら、当該映画をしっかりと見た記憶がない。
考えてみれば、アニメ『ゼーガペイン』(ZEGAPAIN)がシミュレーション仮説に近い。
作中にも物理学的な話題が盛り込まれ、主人公たちの世界が量子コンピュータに演算される仮想空間だと判明する。
『ゼーガペイン』の場合、もともと存在した世界のバックアップとして仮想現実(VR)が存在するので、ゼロから作られた世界ではないことも特徴的だ。
余談だが、花澤香菜の声優初主演作がアニメ『ゼーガペイン』だ。



月日は流れて本日。
未だに仮想現実世界の小説を書いていない。
堕天使エヌのペンは剣よりも重い。

ここで、改めてシミュレーション仮説を考える。
仮想と言えば、昨今流行の仮想通貨だが、仮想現実とはやや毛色が異なる。
Wikipediaの「シミュレーション仮説」の項にも詳しく説明されていて読むのが大変だ。
この世界は仮想現実(VR)だとする理論が推されている理由は、世界を説明できるからというだけだ。
簡単に書くと、生物が発生する奇跡的な条件が整っていたことは、偶然ではなく意図的に設定されていたと考える方が自然だと言われている。
また、この世界の現象は量子力学などの現代物理学に従うものであることも、プログラムされているものだと考えられる。

シミュレーション仮説は、哲学者のニック・ボストロム博士が提唱した比較的新しい思想だ。
最近でも、シミュレーション仮説に対する新説が生まれている。

昨年の2016年、投資銀行・メリルリンチのシンクタンクが「我々はすでに20~50%の確率でバーチャルワールドに住んでいる」、すなわち世界が仮想現実であると経済予測レポートに記したことが話題になった。
個人的な意見として、世界がシミュレーションソフトの中にあるならば、もう少し経済予測の精度が上がっても良いのに。
ともかく、科学者や哲学者ではなく、投資家やシンクタンクがシミュレーション仮説を持ち出すのは面白いことだ。

そして今年2017年、オックスフォード大学の理論物理学者らがシミュレーション仮説を否定する論文を投稿した。
ゾハール・リンゲルらの否定意見では、量子力学に基づいて世界をシミュレートするためのデータ容量が莫大であることを挙げている。
全宇宙の原子を集めても、我々の世界レベルの演算を記録するコンピュータは作れないそうだ。
だが、私の考えとしては、データ容量の問題がシミュレーション仮説を否定する根拠になり得ない。
この世界が仮想現実だと仮定すれば、それをシミュレートする世界はより高次元の存在のはずだ。
だから、この世界すべて以上の記憶領域を創出できても不思議ではない。
やはり特定事象が存在しないことを証明することは難しく、いわば悪魔の証明である。
上述の理論物理学者らが示したことは、「この世界」では「この世界」と同レベルの仮想現実をシミュレーションすることはできないというだけだ。

シミュレーション仮説が正しいことを証明する方法は、主に2つ思い当たる。
1つ目は、上位世界の存在が現れること。
これは宇宙人襲来以上に面白い展開だ。
2つ目は、下位世界がシミュレート可能になること。
これまたエキサイティングであり、人工知能(AI)研究の発展がカギになりそうだ。



本格的にシミュレーション仮説を勉強してみようか。
気が向いたら、仮想現実を世界観とする小説も書くぞよ。
今回の記事は、科学、哲学、投資、アニメ、ゲーム、創作などの話題が入り乱れ、個人的に書いていて面白かった。

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